殺菌剤として使用した農産物の残留農薬は、紫外線で光分解できる?

かつて、殺菌剤として使用されていた物質が、農薬登録の失効後も、残留農薬として高濃度で検出されています。通常、散布された農薬は、その目的を果たした後、土壌中や水中で、太陽紫外線による光分解、微生物による分解、植物体内で植物の持つ酵素等による代謝を経て、最終的には農薬として作用のない物質へと消失します。

本記事では、農薬の使用から消失までの流れと、近年の残留農薬のリスク低減に貢献する技術を紹介します。

残留農薬の実情を知って有効な除去方法を考える

農薬の安全性は?

農薬は、農作物等の病害虫を防除するために使用される殺菌剤や殺虫剤などの薬剤のことです。農家では、米、野菜、果物などさまざまな農産物を作りますが、病害虫や雑草から大切な農産物を守るために、必要最低限の農薬散布も行います。

農薬は、使い方を間違えれば環境に悪影響を及ぼす薬剤ですが、その安全性は、「農薬取締法」により厳しく規制されており、その中心となっているのが、農薬の登録制度です。農薬の安全は、農林水産省に登録された農薬について定められた使用方法を守ることで確保されます。

このようにして、現在の農薬は、人や自然環境に悪い影響を及ぼさないように工夫がされています。

散布された農薬はどうなるの?

散布された農薬は、以下の3つの経路を経て、時間とともにやがて分解(代謝)・消失されます。・作物の葉や茎、果実などに付着し、太陽紫外線による光分解か、あるいは、植物体内に吸収され、酵素等で代謝される。・畑の土壌表層でほとんどが吸着し、微生物により分解されるか、あるいは、太陽紫外線により光分解される。

・田んぼの水面に落ち、水中で微生物により分解されるか、あるいは、太陽紫外線により光分解される。このように散布した農薬は、土壌中や水中でいろいろな形で分解されます。農薬は、大気中への蒸発や微生物による分解、太陽紫外線による分解で、徐々に減少していきます。

農薬がある程度の量まで減少する時間は、土壌中や水中に入った量により異なりますが、最初にあった農薬の残留量が2分の1になる期間を「半減期」といいます。土壌中の減少速度は、農薬の種類や土質等による影響も受けますが、ほとんどの農薬の半減期は30日以内になっています。

半減期が1年以上のものは、農薬登録されません。また、太陽紫外線による光分解では、夏季と冬期で半減期が異なります。これらの時期では、1日当たりの光量が3~4倍異なると言われています。水中の場合では、水中深度が大きくなると、光の透過率が減少します。

例えば、水深50cmでの分解速度は、水面に比べ1/2に低下するという報告があります。

散布された農薬は大気中でどうなってるの?

農薬散布が行われている場合、一部が風に乗って空中で広がっているような気がしませんか?屋外で散布するので、農薬が目的外にまで散布されてしまうのも仕方がないかもしれません。このように、農薬が目的外のところに飛び散ることを“飛散”といいます。

風の向きや強さ、散布する高さにより、飛散の距離や程度が異なります。通常は、散布する高さと同程度の距離だけ飛散すると言われています。また、風が強ければ、それだけ遠くに飛散するため、秒速3m以下の風速では散布禁止になっています。

農薬の大気中濃度はどうなっているでしょうか。散布した農薬が大気中に漂う量を“気中濃度”といいます。散布区域内と散布区域外で気中濃度を測定すると、散布区域内では、散布直後までは高濃度で検出されますが、終了後は急速に低くなっていきます。

また、散布区域外では、散布直後でも農薬の検出はほとんどありません。

残留農薬って、大丈夫なの?

病害虫や雑草から大切な農産物を守るため、品種改良や、雑草抑制、病害虫の発生対策など、さまざまな努力が行われてきました。しかし、病害虫から農作物を守る有効な防除方法がなかった時代には、日本において、享保年間に起きた稲の害虫ウンカによる大被害がありました。

また、1845年にアイルランドで大発生したジャガイモの疫病は、悲惨な飢饉をもたらしました。その後、戦後の日本では、科学技術が進歩すると化学合成農薬が使われるようになりました。その結果、農作物の収穫量が増大し、農作業も効率化しました。

しかし、これらの農薬の中には、人に対する毒性が強いものがあったり、また、農作物や土壌への残留性の高いものがあったりなど、昭和40年代には、社会問題として取り上げられるようになりました。農産物に散布された農薬は、その有効成分が作物や土壌に残留することで、農薬の効力が持続します。

農薬の残効性が高いと、病害虫の防除効果が高く、その分、作物にも残留しやすくなります。農薬は、その目的を発揮した後、すぐに消失するわけではありません。このようにして、農作物に残った農薬を“残留農薬”と言います。

この残留農薬を分解させ、環境に農薬を残さないための、より安全な技術開発に取り組む2つの例を紹介しましょう。

ペンタクロロフェノール(PCP)由来とされる八塩素化ダイオキシン(OCDD)を光分解する技術

殺菌剤として使用されていたペンタクロロフェノール(PCP)ですが、そのPCPからダイオキシン類が確認されたため、1990年に農薬登録が失効しました。しかし、このPCP由来とされる八塩素化ダイオキシン(OCDD)は、現在でも、日本の各地で高い濃度で検出されています。

平成14年度の農業環境研究成果情報では、400nm以下の紫外線領域を太陽光に疑似させた光分解反応実験装置を使い、OCDDに光照射しました。すると、OCDDの毒性強度が増加しましたが、二酸化チタンを添加すると、光触媒(光が当たると働き始める物質)作用によりOCDDが分解されました。

神奈川県が行った残留農薬を減らす新しい技術

神奈川県では、都市と農業の共存を目指しており、そのために残留農薬を減らす取り組みを行っています。無農薬で作物を育てるのは難しいことなので、栽培に最低限必要な農薬を使い、その農薬が役割を終えた後、残留した作物上の農薬を光触媒(酸化チタンを使用)により人為的に分解させる研究を行っています。

実験では、ある農薬と酸化チタンをよく混ぜて散布したところ、酸化チタンを使用した区域では、作物上の残留農薬の分解が早く行われていることがわかりました。

農作物への残留農薬は、光触媒で分解できる

光触媒は、太陽紫外線や蛍光灯などの光が当たると働き始める物質のことです。1972年に日本の科学者により発見されたこの原理は、酸化チタンに紫外線を当てると、その表面に強い活性酸素や水酸ラジカルを生成し、有害化学物質や細菌などを酸化分解し、二酸化炭素や水を生成します。

光触媒による農薬の分解は、機能性と環境性向上において高い効果が期待できます。